-和名解説-
こぐま座は北極星のある星座、おおぐま座は北斗七星のある星座です。北極星を中心に星空は東から西へと時間とともに巡ります。北斗七星は中国起源の呼び名で、北極星を見つける目印にもなります(↓●ページ参照)。
北極星のある星座
全天でもっとも有名な星は北極星でしょう。これは星の和名の世界でも同様で、全国各地にさまざまな呼び名があります。ミョウケンボシ(P●参照)以外の名前をいくつか紹介しましょう。
北極星は、北の方位を知るのに役立つ星です。昔は、今ほど簡単に方位を知る手立てがなかったので、とくに海で働く漁師さんや船乗りにとっては、とても重要な星でした。
「大事な星さんはキタノヒトツ。海上で生活する者には、いちばん大事な星さんやな。その星がひとつ見えとるだけでほかの星が隠れとってもな、あれはキタノヒトツやと勘で見るんやな」。
(三重県志摩市阿児町の漁師さん)2等星である北極星のまわりには明る
い星が少ないので、北の空に〝ひとつ〞ぽつんと輝くキタノヒトツという名はぴったりです。さらに、ヒトツ輝いているのではなく、一人でいるのだ、とより親しみを込めて呼ばれたキタノヒトリボシ(鹿児島県指宿市)という名からは、北極星が生活に密着した存在であることがうかがえます。
北極星の代表的な呼び名にネノホシ(子の星)があります。「子」は、十二支で真北の方角を示します。
「ネノホシを船の後ろ向けたら、南に船首向いとるとか。方向知るのはネノホシな。あの星大きい。ようわかりよった。よう光りよった。羅針盤も時計もない時期に、それだけ頼りでな、海出とったがな」。
(香川県坂出市瀬居町の漁師さん)
濃霧で、陸地の地形を目印に方角を知ることができないときでも、子ね の星が頼りになったのです。
北極星から少し離れて輝くこぐま座のβ‐γのふたつの星にはヤライボシの名があります。矢来とは竹や丸太を組んで作った囲いのことで、北極星のまわりをまわるカチボシ(北斗七星)によって北極星が取られないように矢来で守るようすを表したものでしょう。福井県坂井市三国町に伝わるナンボヤ踊りでは、
とろう、とろう、とカチボシまねく
とらせまいとのヤロウボシ
と唄われています。ヤライボシがなまったものでしょうか?
北斗七星のある星座
おおぐま座の熊さんのしっぽが北斗七星です。α星から順にひとつずつβ‐γ‐δ‐ε‐ζ‐η星と、「くまさんのしっぽ」とたどってみましょう(上手)。「くま」にあたる2つの星の辺の長さを5倍伸ばして北極星を見つける方法は、たいへん有名です( 12ページ)。北斗七星は、むかし中国から伝わった名前で「斗」は柄杓のことです。日本でもヒシャクボシとして親しまれてきました。
福井県坂井市三国町などにカジボシ(舵星)の名があります。北斗七星を船の舵に見立てたのです。
「舵みたいにこういうふうになっとるけんな。カシラ(頭)が細うてあとの方が広うて、テンテンテンとこうあるけん、カジボシ(舵星)じゃいうて言いよったんじゃ。ここの人は」。
(広島県尾道市の漁師さん)
また、能登半島では、北斗七星をキタノ大カジ、南斗六星(P●参照)をミナミノ小カジとセットで呼んでいました。
北斗七星の柄杓の桝(〝くまさん〞にあたる)をサイコロの四の目に、柄(〝のしっぽ〞にあたる)を三の目に見立てて、シソウノホシ(四三の星)とも呼ばれていました(瀬戸内地方など)。大空にサイコロを二つ転がして四と三の目が出たのです。1
「くまさんのしっぽ」から、「くま」を取るとフナボシ(船星)です。北の空を航海する船に見立てたものです。沖縄県宮古島では、船星のことをフニブス(フニ=船、ブス=星)と呼んでいました。航海中に船乗りたちが、航路の見当にすることから船星と呼ぶと伝えられています。2
次は、「くまさんのしっぽ」の「しっ」 です。小さい「っ」がありますよ。「し」はζ星(ミザール)で、小さな「っ」にあたるアルコルがソエボシ(添え星)です(上図)。奄美大島では、この添え星をスブシ3と言って、次のように歌われています。
テンニトヨーマレルハ
ナナツブシー、スブシ、
ジンニトヨーマレルハリャ、
ナキャトワーキャトゥ
(天にいるのは七つ星とスブシ、地にいるのはあなたとわたし)4