-それぞれの文化を描く大空のカンバス-

世界の「おおぐま座」「こぐま座」

星の和名では、本編で紹介した名前のほかに、北極星の呼び名として「とくぞうぼし」(III-P●)、「しんぼし」(P●)、北斗七星の呼び名として「かぎぼし」(P●)や「けんさきぼし」(P●)などがあります。また、アイヌ文化では北斗七星を「チヌカルクル」(P●)と呼んでいました。

「北斗七星(中国から伝わった星名)」や「ひしゃくぼし」は、明るさの揃った7つの星列の形から、ごく自然にイメージできるものですが、「シソウノホシ(四三の星)」や「やらいぼし」のように、異なる発想で形づくられた名もあり、実際その星の結びで新しく星座を作ってみると、「なるほど」と納得できるものも少なくありません。

現在、公式に定められた88の星座(P●)は、ギリシア・ローマ神話を元にしていますが、いうまでもなく世界の各地には伝統的なさまざまな星の文化があり、各地域で多彩な星の名前や星座が生まれ、伝えられてきました。もともと、星座の結び方はひとつではなかったのです。

「シソウノホシ」や「やらいぼし」を夜空に描くことは、星空が、見る人ひとりひとりにとって自由な星つなぎを試みる開かれた大空のカンバスなのだという、星空観望の原点を思い出させてくれることでしょう。

さて、先に紹介した鹿児島県指宿地方に伝わる北極星の呼び名「キタノヒトリボシ」は「キタノヒトツボシ」が擬人化された例と考えてもよいでしょう。星に限らず、自然を人の行いやようすに見立てて名前をつける例は少なくありませんが、このような擬人化がなぜ生まれ伝承されてきたのかを、その地域に暮らす人々を取り巻く自然環境や歴史、文化的背景などに照らし合わせて考えてみるのも、意義があることかもしれません。擬人化が発展してさまざまな星座神話や星物語が作られたのだとすると、それらを集めて比べてみるのも面白いテーマといえるでしょう。

「ダオ・ジョル・ラ・カエ(鰐の星)」とおおぐま座(『アジアの星物語』より)

アイヌの星の物語では、北斗七星は「チヌカルクル」の他に、「サマエンの星(P●)」としても登場します。この物語ではアイヌが神聖視した熊が主役として登場し、奇しくもギリシア・ローマ神話の「おおぐま座」と同様です。ところが、タイに伝わる星の物語では、北斗七星を含めた星群を鰐(ワニ)の姿に見立てて「ダオ・ジョル・ラ・カエ(鰐の星)」と呼んでいます(上図)。

同じ星や星列が世界各地でどのような星座としてイメージされ、物語られてきたのか……そこには私たちが星空に何を求め、問い続けてきたのかを知るためのヒントが隠されているのかもしれません。

(裕)

「おおぐま座」「こぐま座」のギリシア神話

パルディー星図に描かれたおおぐま座とこぐま座。

おおぐま座とこぐま座は、母と子の物語としてギリシ ア神話に登場します。ともに配置のよく似た曲線状 の星列を、とても長い熊の尻尾に見立て、その由来 を巧みにストーリーに織り込み、母子熊が仲良く北天 を巡る情景と合わせて、豊かな神話世界を形づくって います(画像01)。

2024/2/6