研究実施計画

第1期(2019年度)

 本研究では各研究者の専門領域に則して考古学・人類学斑5名、文献史学斑2名、天文学斑3名からなる4斑を組織する。前3斑はそれぞれの課題について適宜後1斑の助言を受けつつ研究を遂行し、その結果を後1斑が評価したうえで所見を詰める。この手順に則して共同研究を進める。各班に課される課題の内容と役割分担は以下のとおりである。 

考古学・人類学班(北條・後藤・瀬川・辻田・石村)

  • a) 北海道の縄文・続縄文・擦文時代埋葬関連遺跡・アイヌ民族に関する埋葬頭位・祭祀関連遺跡の主軸方位、火山など周辺景観との関係に関わる法則性の有無や多様性の検討、および民俗事例との比較点検。本課題については主に瀬川が担い北條が補佐する。
  • b) 本州・九州・四国の縄文・弥生時代遺跡における埋葬頭位・祭祀関連遺構の主軸方位や火山など周辺景観との関係にみる法則性の有無・多様性の検討。この課題については北條・後藤・瀬川・石村・辻田がそれぞれ対象地域を分けて実施する。
  • c) 本州・九州・四国における古墳の主軸方位・埋葬頭位・首長居館など祭祀関連遺構の主軸方位、火山など周辺景観との対応関係に関わる法則性の再点検。この課題については主に辻田が担い北條が補佐する。
  • d) 琉球地域のグスク・御嶽における主軸方位、周辺景観との対応関係の点検、および近世併行期に設置された星見石・方位石の軸線と天文現象との対応関係の検討。この課題については北條が担い後藤・石村・高田が補佐する。
  • e) 南太平洋島嶼部における天文現象と航海術・神話との関係についての検討。この課題については後藤と石村が担い高田が補佐する。

文献史学班(田中・細井) 

  • a) 『日本書紀』・『風土記』・『万葉集』・『延喜式』などにおける天体現象と祭祀に関わる諸事象の抽出と点検。この課題については細井と田中が担当する。
  • b) 暦学による古代天文史料の年代観の点検。この課題については細井が担当する。
  • c) 万葉集・おもろ草紙等における太陽と月、その他天文現象の取り扱われ方および先行研究の再点検。本課題については田中が担い、研究協力者として参画予定の保立が補佐する。
  • d) 天文現象と太陽や月その他諸星について論じた先行研究を神話の文献的研究のみでなく日本文学の研究を含めた収集を実施し再点検する。本課題については田中と細井が担う。

天文学班(関口・高田・吉田)

  • a) 考古学班から提示される上記5項目の各所見に対する天文学的側面からの評価。この課題については関口と吉田が担う。
  • b) 文献史学班から提示される3項目の個別知見に対する天文学的側面からの検討。この課題については高田が担い関口と吉田が補佐する。
  • c) 古天文学において提示されてきた古代史と天文現象に関する諸見解の再整理。本課題については高田が担う。
  • d) 天文現象と航法、農事暦に関する民俗資料の収集と整理。本課題については高田が担う。

以上の役割分担のもとで研究を遂行したのち、天文現象に対する人類の認知構造の普遍性と地域性の追求を全研究者の意見交換のもとで進める。さらに本研究の成果を社会に還元するための可搬型プラネタリウムを高田と吉田が構築し、地方自治体等での上映を計画する。


第2期(2023年度)

1. 中心課題となる3項目

 本研究では天文学班(関口・高田裕行・吉田二美・渡部潤一)、文献史学班(田中禎昭・ 細井浩志)、考古学・文化人類学班(北條・後藤明・瀬川拓郎・辻田淳一郎・石村智・岡林 孝作・白石哲也・白川美冬)の3班編制を組み、相互に連携しつつ諸課題への解明を進める。  

 中心的な課題の第一は、縄文・弥生時代から確認される「高い月」の満月への信仰と、古代を経て中世室町期に活性化する観月の問題に系統立った解釈を与えることである。この課題は文献史学班を主担とし、現地調査は考古学・文化人類学班が担う。

 第二は、古代中国暦法からの部分借用が弥生時代に溯って指摘されたことを踏まえ、自然暦と文明側の暦との相互作用を通 時的に再整理することである。この課題には3班が共同で取り組む。第三は、平安期までの星辰関連古記録のデータベースを基礎に、過去の天体現象と実態との突き合わせを行い、記 録に残される過去の天体現象の特性を把握することである。文献史学班と天文学班が担当する。同時にアイヌ文化の星座観を整理・分析し、世界各地の星座観との比較および類型化をはかる。考古学・文化人類学班の後藤・瀬川と天文学班の高田・吉田が本課題と向き合う。

2.「高い月」と「低い月」をめぐる最適な学術用語の提案

 さらに「高い月」と「低い月」の問題については、我々の過去4年間の分析結果に立脚し つつ国際学会にも適用可能な新学術用語を提案する。現時点では月の運行の極大点と極小点 を意味する“major lunar stand still”と“miner lunar stand still”しかない。18.6年 間に生じる重要な分岐点であるところの、月の出が夏至と冬至の日の出を南北に越える期間 か否かを定義する学術用語は管見の限り不在である。重要なキーワードであるため、各地で 展開されてきた研究実績を点検しつつ、適切な学術用語を準備し国際学会の場などを通じて 提案する。この課題には考古学・文化人類学班と天文学班が共同で向き合う。

3. 各地の遺跡・遺構データのarcAstroVR用データセット化

 現在公開準備中である〈arcAstroVR〉への需要や関心度は、欧米側の研究者に偏ることが容易に予測される。考古天文学自体への認知度が低いこととも連動して、日本国内での関心は、比較的低調のまま推移するであろうと危惧される。

 こうした日本側の現状を克服し、議論の活性化をはかる環境を創出するためにも、本研究では縄文時代の環状列石遺構、弥生時代の祭祀関連遺構、古墳時代の前方後円(方)墳、飛 鳥時代の天文観測関連遺構、藤原宮や平城宮などの古代都城、観月の舞台となった中世室町 期の会所や居館跡、近世城郭の月見櫓などの主要な遺構のうち、地元教育委員会や文化財研 究所など管理機関からの了解を取りつけたものについて〈arcAstroVR〉用にデータセット化 する計画である。主眼は考古天文学的な分析の素材とするためであり、我々の分析結果を誰 もが再検証可能な環境の作出に置かれる。しかしながら吉野ヶ里遺跡での実践結果を鑑みる と、市民からの興味関心も惹く文化財の有望な活用法として注目される、との高評価を受け た。つまり本計画は、文化財の活用に向けた将来性と公開性の双方の担保にもなりうる。

 現時点において許可と支援の確約を得られているのは静岡県沼津市高尾山古墳、長野県松 本市弘法山古墳や松本城月見櫓、京都府向日市五塚原古墳であるが、奈良県纒向遺跡や福岡 県平原1号墓については、是非とも実現させたいと考えている。この課題は考古学・文化人 類学班が対象地域を分担しつつ実施し天文学班が補佐する。

 併せて〈arcAstroVR〉を基盤とするエアドーム・プラネタリウム上映は、後藤が各地で実 践し高評価を得ている継続的な企画であり、考古天文学への関心を高め、我々の研究成果を 社会に還元させる手段としても活用したい。

4. 東アジア近隣地域との比較

 日本列島で解明された考古天文学的な知見は、東アジア史の中に据えてこそ妥当な解釈となる。そのため本研究では、平原1号墓や吉野ヶ里遺跡北内郭の状況との比較点検が可能な事例を中国大陸や朝鮮半島に求め、当該地域の天体観測関連遺構や祭祀関連諸遺跡との比較を試みる。文字社会での様相と無文字社会との様相を比較する作業ともなるため、対照的な様相が鮮明になると予測される。また中国山西省所在陶寺遺跡の様相から示唆される「高い月」の出を捉えた可能性については、現地調査を踏まえ、所見を確定させる。この課題には考古学・人類学班と天文学班が共同で向き合う。